PCSELの歴史
フォトニック結晶レーザー(PCSEL)の概念は、1999年に、京都大学において提案されました。本レーザーは、2次元フォトニック結晶の特異点(Γ点など)での共振作用をレーザー共振器として用いるものです。フォトニック結晶の格子(正方格子や三角格子など)は、屈折率の大きく異なる2種類の材料(空気と半導体など)で構成されており、高屈折率コントラストのフォトニック結晶により、1次(基本)のブロッホ波だけでなく、高次のブロッホ波も互いに結合することが可能となるため、安定した2次元発振が可能となります。
このようなPCSELは、分布帰還型(DFB)レーザー(あるいはその概念を2次元的に拡張した構造)とは、大きく異なります。DFBレーザーの周期構造は、一般的に、屈折率の異なる2種類の半導体からなりますが、屈折率コントラストが小さいため、基本波以外の全ての波の結合は弱くなります。そのため、正方格子構造においては、レーザー発振に最も重要なTEモードにおいて、2次元コヒーレント共振を得ることができません。つまり、全て半導体で構成されたフォトニック結晶を用いた場合には、PCSELとしての機能が得られません。
フォトニック結晶のΓ点の性質により、面垂直方向にレーザー光を出射させることが可能になります。この特徴から、本レーザーを、英語表記では、Photonic-Crystal Surface-Emitting Laser (PCSEL) と呼んでいます。1999年の提案以来、京都大学において、フォトニック結晶レーザーの基本的な動作原理を実証し、偏光やビームパターンの制御、ワイドバンドギャップ材料を用いた青紫波長発光、ビーム走査を実現してきました。さらに、最近では、高ビーム品質な10W級、50W級(さらにはそれ以上)の高出力動作など、さまざまな性能を実現しています。

フォトニック結晶およびフォトニック結晶レーザーに関する革新的な研究が評価され、以下の様々な賞が授与されています:日本IBM科学賞(2000年)、応用物理学会量子エレクトロニクス業績賞(2005年)、米国光学会ジョセフ・フラウンホーファー賞/ロバート・M・バーリー賞(2006年)、応用物理学会フェロー第1回(2007年)、文部科学大臣表彰 科学技術賞(2009年)、IEEE ナノテクノロジー・パイオニア賞(2009年)、江崎玲於奈賞(2009年)、紫綬褒章(2014年)、応用物理学会業績賞(2015年)、レーザー学会フェロー(2017年)、レーザー技術総合研究所泰山賞(2018年)、MOC(マイクロオプティクス会議)賞(2019年)、日本学士院賞(2022年)
本研究所では、レーザーそのものの開発に関わる企業や、ユーザーとなる企業を含めて、様々なパートナーの皆様と連携して独自のPCSEL技術を発展させ、様々な波長への展開や、高度な機能を実現していきます。このような皆様との連携をもとに、先進的なPCSELサプライチェーン(エコシステム)を形成していきます。